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  seminar 01    

人造人間発展 近未来史

 ここでは、人体改造に関わる医学の分野において遺伝 子工学と双壁をなす、人体機械化および人工臓器工学について、その発展の歴史 ( 2001 年以降 ) を振り返ります。

     1 . 人体改造工学の黎明 ( 1990年代後半 〜 2015年頃 )

     2 . 人体機械化技術 ( 1990年代後半 〜 2030年頃 )

     3 . 人体改造(機械化)技術の認知 ( 2010年頃 〜 2040年頃 )

     4 . 改造人間の普及とイデオロギー ( 2040年頃 〜 2070年頃 )

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1 . 人体改造工学の黎明
      ( 1990年代後半 〜 2015年頃 )

  人間の人体に何らかの手を加えるということを人体の「改造」とするならば、例 えばガンなどの病気や傷害に対する「手術」を考えると、かなり昔から行われて いたことであります。そのため、人体の「改造」という概念も、はじめは従来の 医学的「手術」の延長上になります。「人体改造」という観点が一般的となるの は、人工臓器及び義肢の技術が大きく発達し、(大脳及び生殖器を除く)ほとんど の人体構成要素を人工部品で再構成可能となった21世紀初頭と見られています。

  初期の「人体改造」の目的は、臓器移植に代わる不全臓器の治療、四肢損失に対 する高性能な義肢の確立が基本的な姿勢でした。そのため、人工臓器を開発する 立場からは、ほぼ全身を人工部品で構築する、いわゆる「人造人間」を作り上げ ることには、それほど大きな興味を持たれませんでした。つまり、「治療」の範 疇で「改造」をとらえていますので、全く新しく人間を作り出すことにそれほど 必然性が感じられなかったのです。とはいえ、一部の研究機関では「人工臓器と 義肢のかたまり」というアプローチにより人造人間の研究開発に携わっており、 数種類の実験体が開発されました。また、公にはされていませんが、1990年代に は既に人工臓器による人造人間開発を極秘理に進めている機関もあった模様です (後述の人体機械化も同様) 。

  但し、人工臓器の開発には、多くの医学的、生物工学的な困難がありました。臓 器のコンパクト化技術は比較的初期に完成し、2010年までには多くの人工臓器が 体内埋め込み可能なサイズになりました。しかし、「拒絶反応」への対策や、臓 器自体の信頼性がなかなか進まず、1年生存率が10%に満たない臓器が大多数を占 め、2010年代となってもいっこうに改善しないという有り様でした。特に、当初 は人工臓器に出来ないとまで言われていた肝臓や膵臓の人工モジュールの開発は 特に困難を究め、肝臓に関しては培養した肝細胞を詰めた機構のものが2070年ま で主に使用されていました。

  そのような状況のもと、徐々に人体改造のアプローチとして主流となっていくの が、人体の「機械化」でありました。




2 . 人体機械化技術
      ( 1990年代後半 〜 2030年頃 )

  人体「機械化」と言った場合、上述の「人工臓器」による人体改造とは性格がか なり異なります。「機械化」を一言で説明すると、人間を「意志を持ったロボッ ト」にすることです。すなわち、機械化人体の構造は完全にメカニカルなもので あり、そのロボット体に人間の脳を「制御装置」として組み込む、これが機械化 のアプローチです。

  1990年代より、人間型ロボットの技術は大きく発展を遂げ、2000年前後には民間 企業により開発された 2 足歩行型ロボットが一般公開されて注目を集めるなど、 ロボット技術が大きく関心を持たれるようになりました。

  人間型のロボット開発を行う際、問題となるのはその「制御系」です。人間の運 動の多くはコンピュータを用いた制御でも可能ですが、それでもまだスポーツの 様な複雑な動作や、当然ながら人間の「創造」「欲求」等に関わる作業の再現は 苦手です。この部分を人間の「脳」に行わせることで、高性能な自立ロボットが 製作出来るのではないか、という考え方が徐々に芽生え始め、「人体機械化」の 研究が開始されるようになりました。

  但し、端的には人間をロボットにしてしまおう、という機械化の考え方は、その 倫理的側面から、人工臓器以上になかなか一般には受け入れられませんでした。 実際、機械化の研究の多くは、当初は極秘に行われているものがほとんどでした。 研究は、早いものでは20世紀中から開始されているものもあったようです。

  人体機械化では、身体的機構(ロボットの部分)はロボット工学のフィードバック を得られるので、研究の中心は脳機能の解明と、脳組織の生命維持技術となりま す。

  脳機能については、これが完全に解明されなくても、脳をブラックボックスのま まにし、その入出力シグナルを解釈出来れば、機械化人間として機能させること が可能ですので、研究では脳からの情報の翻訳が重点的に行われました。この研 究では、1990年代後半からのコンピュータの発達が膨大な脳データの演算及び脳 イベント変換回路の開発に大きく貢献しました。結果として、脳データ変換装置 の完成は以外に早く、2005年には学会にて完成品とともに発表されるに至りまし た。

  大脳生命維持も、先の人工臓器の研究成果が活かされ、特に大脳単体の生命維持 が得られれば良いことが幸いし、「人工臓器のかたまり」を作るよりも研究の進 展が早く、2020年までには機械体に組み込んだ大脳の10年生存が確認されました。




3 . 人体改造(機械化)技術の認知
      ( 2010年頃 〜 2040年頃 )

  人工臓器、人体機械化にしても、当初は人間を「改造」するということへの抵抗 感から、一般には受け入れられない考え方でした。これらの概念が一般にも認知 されるようになったのは、2010年頃より、人体改造を人類にとっていやが応でも 「必要」な技術にしてしまった2つの大事件が発生したためです。

  その事件とは、

    (1)世界的な出生率の激減及び幼児の健康状態低下

    (2)世界規模の民族紛争の増加

の 2 つです。



(1)世界的な出生率の激減及び幼児の健康状態低下

  この傾向は、20世紀に「先進国」と呼ばれた諸国に限らず、地球上のどの国でも 同時に発生したものであり、原因は不明です。特に「先進国」ではこの問題は深 刻で、ある先進国では2015年の未成年者の死亡率が 50 % を記録しました。この 状況を受け、「14歳で死ぬ」ことが無いようにするための延命策として、人体改 造が徐々にクローズアップされるようになったのです。

(2)世界規模の民族紛争の増加

  冷戦終結後、各地で増加していた民族紛争は、21世紀になると更に混沌を究め、 それに伴い PKF ( 国連平和維持軍 ) の出動も広範囲に至るようになりました。 特に 2030 年代には国連対反国連という構図で紛争が多発し、世界中で戦闘が発 生するようになりました。

  この2030年代に新兵器として現れたのが、「無敵歩兵」と呼ばれる、人体改造に より開発された強化歩兵です。一連の紛争ではゲリラ戦が主体ですので、戦地深 くへの進行を強いられる歩兵は疲労度も大きく、その状態で不意撃ちを受けるケー スが多いので、歩兵の人命損失率は非常に高いものでした。

  このようなゲリラ戦対策として、機械化された肉体(?)を持つ歩兵が開発されま した。脳以外はロボットであるため、一つ一つが複雑な構成で信頼性も低い「人 工臓器のかたまり」に比べてメンテナンスが容易で、脳が無事ならば修理も可能 です。それに加えて耐久力は生身の歩兵と比べてはるかに強かったので、国連軍 を中心にこの「無敵歩兵」が大量に生産され、戦地へ派遣されました。

  しかし、「無敵歩兵」は反国連側でも導入され、両陣営においてより強力な「無 敵歩兵」の開発競争が行われることになり、その結果、全体として人体改造技術、 特に人体機械化技術は飛躍的に上昇しました。そして、「無敵歩兵」で実証され た機械化人体の耐久性、メンテナンスの容易性、そして人間以上の高性能(高出 力)及び拡張性が民間にも注目され、徐々に「身体能力の拡張」としての「機械 化」への抵抗感がだいぶ薄れていきました。



  こうして、人体改造及び機械化は「延命策」「人体の機能拡張」の手段として認 知されるようになりました。そして 2040 年頃から不治の病の人の優先的改造が 開始され、またこの頃にはA.I.(人工知能)の発達により単純作業用ロボットがか なり普及していましたので、いわゆる「人造人間」がかなり一般的なものになっ てきました。




4 . 改造人間の普及とイデオロギー
      ( 2040年頃 〜 2070年頃 )

  2040年以降では、人体改造に対する認識にも変化が生じ、延命と機能拡張の手段 として改造を受け入れる風潮が主流となっていきました。特にこの時点では、不 治の病や大きな傷害を持った人の「延命」しての人体改造が盛んになってきまし た。

  ここでは、当時人体改造技術と改造人間普及率の両面において世界のトップクラ スに位置していた日本を中心に、改造人間が普及していく経緯と、それに付随し て生じた、人体改造に関する様々なイデオロギーについて解説します。

  20世紀では産業ロボットの普及率が世界一であった日本は、21世紀の人体改造技 術においても、世界をリードする立場にあります。特に人体機械化に関しては、 20世紀末に世界にさきがけて人型ロボットが発表されたことからも分かる様に、 ロボット技術とあわせて世界一の技術と普及率を誇っています。2070年頃になる と、日本の多くの主要都市について、その人口に対する改造人間率が50%を超え るといった状況にまでなりました。

  日本における改造人間の高普及率は世界でもかなり特殊で、その原因は様々な社 会学者により研究されています。今のところ、「日本ではロボットや機械そのも のに対する敵対感が小さく、むしろ親しみを感じている」ため、機械化により 「自分もロボットになる」ことに何のためらいも無かった、とする説が有力です。

  それに加え、日本では人体の改造ないし機械化が2050年頃より「ファッション」 として流行するようになったのも、改造人間普及率の増加に大きく影響している と見られています。この改造の「流行」を担うのは10代の女子が主流であり、事 実一年間に人体改造を施す人の男女比を算出すると、男性:女性 = 1 : 3 といっ たかなりの差が生じています。女子のほうが自分の体の改造に積極的な理由とし て、(1)美容の手段として、自分好みの姿形に改造 出来る、(2)体力的な男女差を解消出来る、(3)妊娠、出産の負担を軽減出来る、 といったものが考えられています。

  しかし、このような安易な人体改造観に対し、警鐘を鳴らす考え方も発生するよ うになってきました。代表的なものに「純粋主義(ピュアイズム)」と呼ばれる思 想があります。

  純粋主義は、キリスト教的な思想が土台となっており、神より授けられた肉体に 手を加えること自体を悪とみなします。そのため、人体改造、特に機械化により ほぼ全身を改造したような改造人間に対しては、これを「人間」とは認めない、 という立場をとります。一部では、「入れ歯」すら認めない所もあります。純粋 主義団体には過激派も存在し、人体改造工場を爆破させるというテロ事件も発生 し、大きな社会問題となりました。

  純粋主義はそれほど新しい思想ではなく、人型ロボットが現れ、人口臓器研究が 盛んになり始めた2000年頃にヨーロッパで発生した思想です。そして地域紛争で 「無敵歩兵」が導入され始めた2030年代頃から盛んになり、ヨーロッパでは純粋 主義が主流となったために日本ほど人体改造は普及しておりません。日本でも 2040年代後半から純粋主義が広がりましたが、大勢をしめることはありませんで した。むしろ日本では、その対極の思想である「メカトピア主義」が軽度に浸透 している国家であると見られています。

  本来メカトピア主義は、純粋主義に負けず過激な思想です。ここでは、人体の機 械化を「人類の知恵と技術が生み出した、新しい人類の形態」とみなして賛美し、 全ての人類を機械化人間にすることを最終目標とし、そのためには「手段を選ば ない」姿勢をとります。また機械化人間の理想郷では、後に機械化する人間はク ローン技術を用いて生み出すことをうたっています。クローン技術では基本的に 女性のみでクローンを製作することが可能であるので、男性を「理想郷から見放 された存在」とみなし、男性不要論を展開するのです。このようなメカトピア主 義の過激派によるテロ事件も世界中で多発し、日本でも、2050年に東京の都心部 にて大規模なテロが発生しました (2050年危機)。ただしこれ以降、過激なメカ トピア主義は下火になり、テロ事件は少なくなりました。けれども、2050年〜 2070年の人体改造ブームを見ると、女性の間にはメカトピア主義的な考え方が浸 透しているのかもしれません。




(続きは後日:セミナー入口に戻る)
         
 

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